そろそろ帰ってくる頃だと思うんだけど、遅いなあと思いながらくつろいでいたら、バタバタと足音が聞こえてきた。勢いよく扉が開き、ただいまでもなんでもなく開口一番
「先輩先輩先輩先輩!!!!!バレンタイン!!!!チョコ!!!!ください!!!!」こんなに輝いてる目を見たのは久しぶりで、キラキラを通り越してギラギラしていた。
「……バレンタインチョコって、普通は女の人から渡すものなんじゃないのか」
「そんなの迷信に決まってるじゃないですか!!最近は男性から女性に渡すことも一般化してきてますよ!!さあ早く!!まさか当日にもらうだけのつもりでなにも用意してないなんてことありませんよね!!早く!!早く!!」
「近い……近いって、そんなに目を見るなやめろ恥ずかしい」
目をそらし後ずさりながら僕は言った。
「え……こんなにかわいい後輩になにも用意してなかったんですか……????」
正気を疑うような目つきで後輩は僕を見た。正気を疑いたいのはこっちだ。
「その自己肯定感はどこから湧いてくるの??素直に疑問だよ。というか、チョコレートなら冷蔵庫に入ってるじゃんか」
後輩はため息をつき、大げさにがっかりとした様子を見せた後、目をひん剥きながら言った。
「あ~~ハイハイわかってますよ、いつものあのコンビニで150円くらいのやっっっっすいチョコレートのことを言ってるんですね??先輩が洗い物をしたくないときに私を釣る用の!!あの!!安い!!チョコ!!」
「なんとでも言え、安かろうとチョコはチョコだろ」
「まあ、いいですわ……その反応だと本当に何も用意してなさそうですし、今日のところはそれで我慢してあげます」言いながら冷蔵庫を確認しに行った。
「ホァッ?!」と間抜けな声が聞こえ、また陽気な足音が近づいてきた。
スパァン!!と勢いよく扉を開けた彼女は、怖気だつほど笑顔だった。
「なぁ~~んだ、ちゃあんと用意してたんじゃないですかぁ~~んも~~先輩ったら照れ屋さんなんだからぁ~~」
「催促されなくたって渡してやるつもりだったのに、なんでお前はそうなんだ……」
「こんなの昨日買い物に行ったときは買ってませんでしたよね!!ってことは『今日は予定がある』とか言いつつかわいい後輩の笑顔を想像しながら一人でこのチョコレートを買いに行ってたってことですよね!!ヒューヒュー!!」
うぅっぜぇ~~~~と思ったが、かわいい後輩の想像通りのかわいい顔が見れたので口には出さなかった。