「どこでもいいとは確かに言いましたけど、よりにもよってうら若き乙女を深夜に連れ出すところがただのファミレスって言うのはどういう了見なんですか?先輩。」
どこにでもあるような深夜まで営業しているファミレスの看板を見ながら、後輩はふぐのようにむくれている。
「お前は僕に何を期待しているんだ。大体なぁ、学生の君は少し学校を休んだところで支障はないかもしれないけど、僕は明日も仕事なんだぞ。危ないから一人で帰すようなことは勿論しないけど、ご飯食べたら普通に帰るからな。」
「奢りですか?」
図々しい奴だな、全くどうしようもない。
「奢りですか?とか聞くのはいいが、そもそもお前家を締め出されて携帯以外何も持ってきてないじゃないか。しょうがないからツケといてやるよ。」
「やった〜!今日お昼の食パン1枚以外何も食べてないんですよ〜!ごちそうさまです!」
そう言いながら彼女は、屈託のない笑顔を浮かべた。我ながらこの後輩には甘すぎると思っている。
「ねえねえ先輩、いくらまでなら食べていいんですか?」にやにやしながら彼女が聞いてきた。
「自分で残さないで食べれる範囲ならいい、あんまり気にするな。」そう答えると、はーいと返事をしてすぐメニューに目を落とした。じっくりと精査している、本当にお腹が空いていたらしい。
「先輩、ちょっと見過ぎじゃないですか?いくら私が可愛いからってそんなに見られると恥ずかしいですよ。」
「何をアホなことを言ってるんだ。お前が一人でメニュー見てるから僕が盗み見るような形になってるんじゃないか。」
僕がそう言っても彼女は悪びれる様子もなく、
「だって、先輩いっつも食べる物一緒じゃないですか。だから先に決めたほうがいいかな〜っていう後輩の配慮ですよ〜。」と言った。確かにいつも似たりよったりの物を食べるのでその指摘は間違いではなかった。
「食べるものは決めたみたいだし店員さん呼ぶぞ。」
「えっ、スルーですか先輩?かわいい後輩になにか言う事は?」
特にない、と言ってベルを鳴らした。
「先輩、ピザ一つください。まあだめでももらいますけど。」グラタンの最後の一口を飲み込みながら彼女が言った。
「まあ好きに取りなよ。」もういちいち文句を言うのも諦めた。
ありがとうございます。と言いながらちまちまピザを食べている彼女を見て、何回見ても小動物のようだと思う。
「飲み物取ってくるか、何がいい?」
「いえ、もうお終いにしましょ。ごちそうさまでした。」
「ん、じゃあ帰るか。途中でコンビニ寄ってもいいか?」
「わかりました、いいですよ。ついでに私の朝ごはんも買ってください。」
しょうがないな、そんな笑顔で言われては全くしょうがない。僕はこいつに恋しているからな。