誰かの正月

私は正月が嫌いだ。

年始にしか顔を合わせないような親戚の年寄りどもが雁首揃えてどんちゃん騒ぎするだけのクソみたいな行事だし、去年からは4人いる年下のいとこ共にお年玉をせびられるようになったからだ。お年玉はあくまで渡されるものであってせびるものじゃないことを弁えてないクソガキ共の相手を避けるように車を出し追加の酒を買いに出た。

「やっぱり帰ってくるんじゃなかったな」

好きなアーティストのそうでもない曲を聴きながら私は独り言ちた。

こうなるとわかっていてわざわざ年始に顔を出したのだから私も馬鹿なのは間違いないが、顔を出さなかったら出さなかったで後々母からありがたいお小言を食らうの確実だ。具体的にはチャットアプリ3スクロール分くらい。それを見てひとりの部屋でげんなりするよりはさらっとストレスを流すほうが賢いと思ったのだが、ストレスを流すのにもエネルギーがいるのを忘れていた。

スーパーに着き、頼まれた酒をかごに入れていてふっと目を上げたら、中学の時の同級生を見つけた。(お、帰ってきてたんだ)と思い、声をかけようとしたが、思い留まった。いかにも女の子らしい、と言えるような可愛らしい服装をした可愛らしい見た目の女を連れていたからだ。

なんだ、彼女と連れ立っていたのかと思い、その場を後にした。

家に帰り、親戚共が帰るのを待ってから中学の時の卒アルを開いた。

「なんだ、あいつ、全然変わってないな」変な笑いが漏れた。髪色や体格こそ変わっていたが、優しそうな目や薄い唇は何一つ変わっていなかった。私はこいつが控えめに言って、好きだったのだと思う。

何が好きだったのか問われると答えるのは難しいが、箸の持ち方がきれいで食べ方もきれいなところや、国語の音読で変に恥ずかしがらずにさらりと読んでいる姿を後ろから眺めるのが大好きだった。声も落ち着く声だった。そういえば、高校も一緒だったな、と思ったが図書委員会で一緒だっただけなのであんまり覚えていないことも思い出した。

あの一緒に連れ立っていた女のことも思い出した。彼と図書委員の当番で一緒になったときによく来ていた女だ。卒業式の後に、彼を呼び出していた女だ。

そうか、彼彼女らはうまくいったんだなぁ。やっぱり告白しなくてよかったなぁ。と2年前の自分の行動しなかったことに安堵のような感情を覚えた。のと同時に、もしかしたら、行動を起こしていれば、隣に立てていたかも知れなかったな。とも思い、胸がちくりと痛んだ。卒業アルバムの顔写真を少し撫ぜて、閉じた。

彼は成人式に行くのだろうか、私は行かないから関係ないけど。どうせ私にはノーチャンだってことは今日再確認できたし。行く理由が完全になくなってしまった。前撮りは済ましてあるから何の問題もない。でもそうか、成人式に行かないと彼とはもう一生会うこともないんだろうな、と思った。まあ、いいかな。私は彼に好きだということもなかったし、そんな素振りおくびにも出さなかったのだから、そんなことを言われても困惑するだけだろうし、何よりただただ私がみじめだ。

ってことを新年早々考えている時点で相当みじめだよな、と一人笑った。