「先輩って、季節感死んでるんですか?何が悲しくて新年なのにファミレスに来てるんですか私たち」前来た時と同じようなことを言いながら後輩は僕のほうを見た。
「季節感死んではいないよ、彼もまた冬期休暇をとっていてね。というか、前とは違う店だしいいじゃないか。ダメか?」
「ダメじゃないですけどぉ~、昨日は一緒に蕎麦食べたから死んでないのもわかってますけどぉ~。趣がないじゃないですか、新年っていうのは家でやっすいオードブル食べたりするのがイイんじゃないですか」
「そうか?僕は君と食事できるならどこでもいいんだけどなぁ。ほら、順番だぞ席に行こう」ちょっとわざとらしくデレてみた。
「えぇ~、先輩がそういうなら、まあいいですよぉ」わかりやすくニマニマしている、チョロいな。
「そういえば、昨日食べた蕎麦美味しかったな。何か特別なことしたのか?」その場でも散々伝えたが、彼女を帰してからも食べたいと思ったので聞いてみた。
「何も特別なことはしてませんよ?私の家の味付けだから違う味を美味しいと感じたんじゃないですか、というか食べたかったらいつでも呼んでくださいよ。作るんで」
いや、それは申し訳ないじゃないか。と思ったが、正直な感想を述べると後輩の作るご飯は美味しいのでそれもアリだな、と思った。
「む、そうか。じゃあお言葉に甘えようかな」
「……なんか最近急に素直になりましたよね、何か企んでるんですか?」じとりとした視線を僕に投げながらも、嬉しいのかニヤニヤを堪え切れない表情で後輩は言った。
「君に対して取り繕う必要もないからな、それに僕はもともと素直な人種だぞ。前は素直じゃなかったとでも言いたいのか」
「前はぁ……なんというか新しく猫を飼い始めましたみたいな感じだったんですよ。おっかなびっくりみたいな、触れるに触れられないみたいな」
「猫?まあ手のかかる子なのは間違いないな」
「ちょっと、なんで目をそらしながらわざとらしい棒読みでそういうこと言うんですか。まるで私が……」もにょもにょ何か言っているが聞き流しておこう。
「ふう、美味しかった。ごちそうさまでした」
「いえいえ、気にしないでくれ。それで、帰るか?」
「帰りますよ?明日の朝ごはん何がいいですか?それによってはスーパーとかに寄ってもらわなきゃですけど」
そうか、と言いつつ僕もニヤつきを堪えるので必死だった。
この人にとって、僕が一人で暮らしている部屋も帰るところの一つになっているのだと思うと嬉しくてしょうがなかった。車の中でなかったら速攻でバレていじられていたと思うのでよかった。
「切り餅もあるし、君が作ってくれたおつゆもまだあるし、大丈夫だな。デザートとかはいらないか?」
「あ、お酒買い足しに行きましょうよ。3が日くらい飲まなきゃ損損ですよ」
「了解した」そういって車を動かし始めた。
「ちょっと買いすぎましたね」
「3が日で消費しきらなきゃいけないわけじゃないんだから、いつでも来たらいいいだろう」
虚を突かれたような顔をした後、にんまりと笑い「わかりました」とだけ言った。
思ったよりも買い物に時間をかけてしまったので、外はもう真っ暗だった。
「そろそろおなか空いたんじゃないですか、お雑煮あっためますか?」
「助かる、君が作るものは全部美味しいからな」
「はいはい、ちょっと待っててくださいね」
さっき選んでいたエプロンを着け、雑煮を温めに行く彼女をこたつから見送った。
待っている間、手持ち無沙汰なので、食材以外に買ったものを仕分けていた。昨日は寒い思いをさせたので、今日はこたつではなくちゃんと布団で寝てもらうためにだ。
数分して「あったまりましたよ~」となんだか上機嫌な様子で、戻ってきた。
そんな様子もかわいいなぁと思った。